「腕には自信がある。そろそろ独立して自分で仕事を請けたい」
「独立するのに建設業許可がいるのか、なくても始められるのか分からない」
「一人親方でやっていくか、会社をつくるかも決めかねている」
独立を考え始めた職人の方から、よくいただくご相談です。
先に全体像をお伝えすると、独立してすぐに建設業許可が必要になるわけではありません。一方で、独立した日からの過ごし方が、数年後に許可を取れるかどうかを左右します。この記事では、独立の形の決め方、建設業許可が必要になるタイミング、そして独立初日から始めておくべき許可の準備を、行政書士の実務目線で解説します。
結論:許可がなくても独立はできる。ただし「準備」は独立した日から始まっている
まず結論です。
- 請負代金500万円未満(建築一式工事は1,500万円未満)の工事だけを請け負うなら、建設業許可がなくても独立・営業できます。
- ただし、仕事が増えて500万円以上の工事を請けるには許可が必要になり、その許可には経営経験5年以上などの要件があります。この経験年数は独立した日からカウントが始まります。
- 独立時に確定申告書や工事請負契約書・注文書・注文請書・請求書をきちんと残しているかどうかで、数年後に許可を取れるかが決まります。「許可はまだ先の話」と思っている時期の書類が、後で許可申請の証明資料になるからです。
つまり、独立の手続きそのものはシンプルですが、「いずれ許可を取って大きい仕事を請ける」つもりがあるなら、最初の段取りが重要になります。順に説明します。
独立の形を決める:一人親方(個人事業主)か、法人か
独立にはまず「個人でやるか、会社をつくるか」の選択があります。
一人親方(個人事業主)として独立する場合
もっとも手軽な形です。国土交通省の資料では、一人親方は「従業員を雇っていない個人事業主」と定義されています。
- 開業届の提出:税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。提出期限は、2026年1月1日以後に開業した場合、開業した年分の確定申告期限までです(以前は開業から1か月以内とされていましたが、税制改正で変わりました)。青色申告を希望する場合は、青色申告承認申請書の提出期限(開業時期により異なります)が先に到来することがあるため、開業届とあわせて早めに提出するのが実務上おすすめです。
- 労災保険の特別加入:一人親方は労働者ではないため、通常の労災保険の対象外ですが、建設業の一人親方には特別加入制度があります(労災保険法第33条・第35条)。一人親方団体を通じて加入する仕組みで、現場入場の際に加入を確認されることも多いため、建設業で独立する際には早めに加入を検討するとよいでしょう。
法人を設立して独立する場合
株式会社や合同会社を設立してから営業を始める形です。設立登記の手続きと費用がかかる一方、取引先からの信用や、後述する社会保険の面で個人事業と扱いが変わります。
法人を設立した場合、健康保険・厚生年金保険の適用事業所として加入手続きが必要になります。社会保険の加入は、建設業許可を取る際の要件にもなっています(建設業法施行規則第7条第2号。適用事業所に該当する営業所が対象)。
どちらを選ぶべきか
「まず一人でスモールスタートしたい」なら個人事業主、「最初から人を雇う・元請と直接取引したい」なら法人が候補になります。なお、個人事業主として建設業許可を取ったあとで法人化する場合は、許可の引き継ぎに事業承継認可などの手続きが関わってきます。将来の法人化がある程度見えているなら、許可を取る前の段階で一度行政書士に相談しておくと、二度手間を避けられます。
建設業許可はいつから必要になるか
基準は「1件500万円」
建設業許可が必要になるのは、請負代金500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上。ただし延べ面積150㎡未満の木造住宅工事を除く)の工事を請け負うときです(建設業法第3条・施行令第1条の2)。逆に言えば、この基準未満の「軽微な建設工事」だけを請け負う間は、許可がなくても違法ではありません。
注意したいのは、この500万円の判定です。
- 消費税・地方消費税を含んだ額で判定します。 税抜では500万円未満でも、税込で500万円以上なら許可が必要です。
- 契約を分割しても合算されます。 1つの工事を2つの契約に分けても、合計額で判定されます(施行令第1条の2第2項)。
- 注文者から材料の提供を受けた場合、その市場価格(運送費含む)も請負代金に加算して判定します(同条第3項)。
「500万円ぎりぎりだから契約を分ければ大丈夫」という考え方は通用しないので、この点は独立当初から正しく理解しておくべきです。
実務では「許可がないと仕事が回ってこない」場面がある
法律上は500万円未満なら許可不要ですが、実務はもう一歩シビアです。
社会保険については、国土交通省の「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」が、元請企業に対して、法令上加入義務があるにもかかわらず社会保険に加入していない建設企業を下請として選定しない取扱いを求めています。建設業許可についても、法律上の義務とは別に、元請が自社の基準として「許可業者であること」を下請選定の条件にするケースが実務上多くあります。
つまり、独立後に仕事の幅を広げようとすると、金額基準より先に「元請の要求」として許可が必要になることがある、というのが現場の実情です。
独立した日から「許可の準備」は始まっている
ここがこの記事で一番お伝えしたい部分です。建設業許可の主な要件と、独立初日からできる準備を整理します。
経営経験のカウントは独立した日から始まる
許可の要件の1つに、経営業務の管理責任者がいます。建設業に関する経営経験(経営業務の管理責任者としての経験5年以上など)を持つ人が、常勤で在籍している必要があります。
重要なのは、個人事業主として建設業を営んだ経験(請負工事の経験)も、この経営経験として認められることです(愛知県の手引きでも、経営業務の管理責任者の経験を有する者に「個人の事業主」が明記されています)。つまり、一人親方として開業したその日が、経営経験5年の起算日です。独立から5年間、建設業を続けて記録を残せば、経営業務の管理責任者の要件は自分自身で満たせるようになります。
確定申告書と契約書・注文書は「許可申請の証明資料」になる
経営経験は、主張するだけでは認められず、書類で証明します。愛知県の場合、個人事業主としての経験の証明には次の書類が必要です。
- 確定申告書の控え(収支内訳書または青色申告決算書等を含む一式)と所得証明書を必要年数分
- 各年に施工した工事の工事請負契約書、注文書+請書控、または注文書・請書控・請求書のいずれか+入金が明確に分かるもの(通帳・預金取引明細票など)(確定申告書から年間を通じて建設業を営んでいたことが明らかな場合は年1件の確認で足りますが、明らかではない場合、年1件以上の確認が必要になる場合があります)
毎年きちんと確定申告をして、工事請負契約書・注文書・注文請書・請求書を年ごとに保存しておく。これだけで、5年後の許可申請で一番つまずきやすい証明のハードルが大きく下がります。逆に、申告をしていなかったり書類を捨てていたりすると、実際に5年経営していても証明できず、許可が取れません。
技術者の要件は「資格」か「実務経験」
もう1つの要件が営業所技術者等(従来の専任技術者)です。営業所に、資格または実務経験の要件を満たす人が常勤でいる必要があります。一人親方なら自分自身が該当するのが通常です。
- 国家資格で満たす:施工管理技士などの資格があれば、対応する業種の要件を満たせます。独立前後で資格を取っておくと、許可への道のりが大きく短縮されます。
- 実務経験で満たす:資格がない場合、原則10年以上の実務経験が必要です(指定学科の卒業で短縮あり)。この場合、前職(勤務時代)の実務経験も使えますが、証明には前職時代の工事に関する資料が必要になることがあります。独立してから前の勤務先に書類を頼むのは気まずいものです。実務経験での証明を考えているなら、独立前に何が必要かを確認しておくことをおすすめします。
財産的基礎:自己資本500万円
一般建設業の許可には、自己資本500万円以上、または500万円以上の口座残高がある銀行預金残高証明書などの財産的基礎が必要です。独立当初から意識して事業用の資金を積み立てておくと、申請時期を資金繰りで遅らせずに済みます。
このほか、誠実性があること・欠格要件(破産や一定の刑罰歴など)に該当しないことも許可の要件ですが、通常の独立で問題になることは多くありません。
独立から許可取得までのモデルスケジュール
- 独立時:開業届の提出(開業した年分の確定申告期限まで)、労災の特別加入、事業用口座・書類保存のルールづくり
- 1〜5年目:毎年の確定申告と、工事請負契約書・注文書・注文請書・請求書の年別保存。資格取得(施工管理技士等)に挑戦するならこの期間に
- 5年経過時:経営業務の管理責任者の要件(経営経験5年)を自分の経験で満たせるように。技術者要件・財産的基礎が揃っていれば許可申請へ
なお、前職で取締役や個人事業主としての経営経験がすでに5年以上ある方は、独立後すぐに許可を申請できる可能性があります。また、要件を満たす人を常勤の役員等として迎える方法もあります。自分のケースで最短いつ許可が取れるかは、経歴によって大きく変わるため、独立の段階で一度診断を受けておくと計画が立てやすくなります。
よくある質問
Q. 独立してすぐに建設業許可は取れますか。
前職での経歴によります。前職で建設業の取締役を5年以上務めていた方や、個人事業主として建設業を5年以上営んでいた方は、経営業務の管理責任者の要件を満たせる可能性があり、独立後すぐの申請も検討できます。勤務していただけ(役員ではない)の場合は原則として経営経験にならないため、独立から5年の経営実績を積むか、要件を満たす人を常勤役員等に迎える形になります。
Q. 一人親方のままでも建設業許可は取れますか。
取れます。法人にする必要はなく、個人事業主のまま許可を取得できます。要件(経営業務の管理責任者・営業所技術者等・財産的基礎など)は法人と同じ考え方で、一人親方なら自分自身が経営業務の管理責任者と営業所技術者等を兼ねるのが一般的です。
Q. 500万円未満に契約を分ければ、許可なしで請けられますか。
分割しても合算で判定されるため、原則としてできません(建設業法施行令第1条の2第2項。ただし、正当な理由に基づいて契約を分割した場合は例外とされています)。注文者から材料の提供を受ける場合は、その市場価格も加算されます。金額基準を誤解したまま請けてしまうと無許可営業になるため、判断に迷う案件は事前に確認してください。
Q. 独立前にやっておくべきことはありますか。
実務経験で技術者要件を満たす予定の方は、前職の実務経験の証明に何が必要かを独立前に確認しておくことをおすすめします。また、資格取得・自己資金の積み立て・書類保存のルールづくりは、早く始めるほど許可申請が楽になります。
Q. 開業届はいつまでに出せばよいですか。
2026年1月1日以後に開業した場合は、開業した年分の所得税の確定申告期限までに提出します(税制改正前は開業から1か月以内とされていました)。なお、青色申告を希望する場合は、青色申告承認申請書の提出期限(開業時期により異なります)が先に到来することがあるため、開業届とセットで早めに提出するのが安全です。
Q. 許可を取るときの費用はどのくらいかかりますか。
新規の知事許可(一般)で、法定費用9万円に行政書士報酬(依頼する場合)を加えた金額が目安です。詳しくは建設業許可の費用まとめ|申請・更新・代行の相場で解説しています。
まとめ
- 建設業許可がなくても独立はできます。許可が必要になるのは請負代金500万円以上(建築一式は1,500万円以上。木造住宅には例外あり)の工事を請けるときです(税込で判定・分割や材料提供分は合算)。
- 独立の形は一人親方(個人事業主)と法人の2つ。開業届・労災の特別加入(一人親方)、社会保険(法人)など、最初の手続きを押さえましょう。
- 個人事業主としての経営経験(請負工事の経験)は、経営業務の管理責任者の経験5年にカウントされます。毎年の確定申告と工事請負契約書・注文書・注文請書・請求書の保存が、そのまま将来の許可申請の証明資料になります。
ポイント:独立してすぐに建設業許可は要りませんが、経営経験5年のカウントは独立した日から始まっています。確定申告と工事書類の保存を独立初日から徹底すれば、5年後に「証明できずに許可が取れない」という一番もったいない失敗を防げます。
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- 許可取得後の事業年度終了届(決算変更届)・更新期限の管理まで見据えたサポートができる
「独立を考えているが、許可のことはまだ先」という段階のご相談も歓迎です。独立時の段取りが整うだけで、5年後の選択肢が大きく変わります。
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